2005年ニューヨーク・ラスベガス

 

   ニューヨーク大学のジャクリーヌ・M・アトキンス教授から、

   最初の依頼があったのは、2002年11月のことだった。

   ニューヨーク市で開催される「戦時中にプロパガンダとして使われた布展」を

   計画中なので協力して欲しいということだった。

   1930年代から1940年代(昭和5年〜15年)の飛行機・軍艦・兵士・

   旗などの、きもの・帯・羽裏などの展示を考えているということだった。

   展覧会はアメリカ、イギリス、日本にしぼりたいとのこと。

   教授は戦時中でありながらモダンでアート的な柄のきものや帯が多く作られていたことを知り、

   洗練された日本文化の素晴らしさを感じているとも話され、

   私もその仕事に協力しようと決意した。

   最初の一年は古着屋さんをまわったり、京都の羽裏を集めている人を訪ねたり、

   しかも半世紀以上も前のもので状態の良いものというとなかなか容易に

   見つからなかったが、少しづつ驚くような戦争画のきものや帯が見つかった。

   ジャクリーヌ教授の専門分野は、ヒストリカル・テキスタイル(歴史的な素材)ということで、

   京友禅や銘仙などの織物にも造詣が深く、しかも戦時中の

   絹の不充分だった時代の化学繊維・再生繊維などにも研究は及んでいた。

   その後、3年をついやした展覧会はいよいよニューヨークのバード大学院のギャラリーで

   11月16日、オープニングの日を迎えた。

   日本和装師会のメンバー43名は全員、訪問着で出席した。

   洋服・スカーフ・旗・きもの・帯・羽織・お祝着など多岐にわたるものが

   それぞれのお国柄をデザインの中にしのばせていて、

   戦争のプロパガンダ(宣伝)の役割を果たしていたことがわかる。

   3フロアーに展示されているものの中には英国国旗とチャーチル首相の顔を中央に

   戦意高揚のスローガンがびっしり。

   又アメリカからも国旗のモチーフのスカーフ。

   日本の出品作が、一番直截的で面白い。

   軍艦・戦闘機・戦車・鉄兜・旗・落下傘だどが勇ましく描かれている。

   まさにデザインが時代を語っている。

   私は2点出品した。

   1点目は、男の羽織。裏地に台湾の地図と陸軍の軍隊の入場行進。

   勿論、地図は地名が昔の地名だ。

   2点目は、めずらしい女物。夏の単衣。1940年(昭和15年)の日独伊同盟を反映して、

   ドイツのハイケンクロイツと、日の丸が白と赤で巾10cm位の立縞だ。

   京都市産業技術研究所の藤井健三氏に出展前に見て頂いた。

   ビスコースレーヨン地(再生繊維)とのこと。麻・絹にかわり、作れれたもので、

   桐生・足利でもこの生地は流行したそうだ。

   さほど広くないギャラリーはきもの姿があふれて、いくつかの新聞社のカメラにもおさまっていた。

   子供のきものの中でも男の子のふだん着は、親の愛情で大切にしまってきたものだろう。

   こんな展覧会で、陽の目を見ることになるとは誰が考えたことだろう。

   NYのグランド・ゼロ(爆心地)で祈りをささげ、メトロポリタン・ミュージアムで勉強し、

   オープニングのあとは、セントラルパークの中の、タバーン オンザ・グリーンで夕食。

   美しいライトの中でリッチな食事をたのしんだ。

   ニューヨークでは、日本の団体旅行とは全く逢うこともなかった。

   ラスベガスでは、グランドキャニオンの世界遺産の絶景をたのしみ、

   ショッピングにギャンブルに非日常のダイナミックな旅を元気で過ごして、

   いつものごとく、もう一日あったらというみなさんの声。

   ちょっとしんどかったけど、中身の濃い旅でした。